ほ乳類である人間は本来、口ではなく鼻で呼吸するように設計されています。
しかし、私のボイトレ教室で「のどがすぐに痛くなる」「のどが弱い」と訴える生徒さんのほとんどが、普段口呼吸をしているんです。
私は皆さんに、口呼吸から鼻呼吸へ習慣を変えることをおすすめしています。
私がなぜ鼻呼吸をおすすめするのか、今回は「口呼吸」と「鼻呼吸」についてお話ししたいと思います。
人はいつ、鼻呼吸から口呼吸へ?

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人はみんな赤ちゃんのときは鼻呼吸だったはずです。
それなのに、大人になるにつれて口呼吸をする人が増えてくるのはなぜなのでしょう?
その謎を解く鍵は、赤ちゃん時代の成長過程にありそうです。
前回のコラムでも触れましたが、私は2人の子どもを出産し、2人とも母乳で育てた経験があります。
私が出産前に想像していたのは「チュッチュ」とかわいらしく母乳を飲む生まれたての赤ちゃんの姿。
しかし、実際は私の想像とはかけ離れていて、赤ちゃんは「ギュッ!
ギュッ!!」と物凄い吸引力でおっぱいを飲みます。
それはお母さんの乳首が伸びてしまうほどのパワーです。
吸い方にも驚きました。
赤ちゃんは「吸う」というよりも、乳首を舌と上あごでサンドして舌の力で「しごく」ように母乳を飲むのです。
もうお分かりでしょうか?
赤ちゃんは母乳を飲むとき、舌や唇、口の周りの筋力が鍛えられているのです。
しかし、赤ちゃんは離乳食が始まったり、言葉を発するようになったりして、口を開く時間が増えていきます。
その過程で口呼吸を覚え、鼻呼吸から口呼吸に切り替わってしまうそうです。
残念ながら、人間は母乳を飲むとき以外に、舌や口周りの筋肉を鍛える機会はほとんどありません。
つまり、離乳の後は舌や口周りの筋力は衰えてゆくことが多いのです。
口呼吸から鼻呼吸へ切り替えよう

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「鼻炎で鼻が詰まっていて鼻呼吸ができません」と訴える生徒さんがたくさんいらっしゃいます。
そのような生徒さんには、まず耳鼻咽喉科で鼻炎の治療をすることをお勧めしています。
しかし、鼻詰まりが解消されたからといって、すぐに口呼吸から鼻呼吸にシフトできるわけではありません。
一説によると、口呼吸になり鼻で呼吸する機会が減ることで、鼻の中の風通しが悪くなり、鼻炎などの鼻の疾患が引き起こされると言われています。
鼻が詰まるから口呼吸になるのか、口呼吸をしているから鼻が詰まってしまうのか。
ニワトリが先か、タマゴが先か……の話のようですね。
つまり、今まで口呼吸だった人が鼻呼吸に切り替える(本来の状態に戻す)には、意識的に訓練することが必要だと私は思います。
では、どう訓練すれば良いのか

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私のおすすめの訓練は「リラックスの口」を積極的にすることです。
「リラックスの口」をしていると、口の周りをぐるっと取り囲んでいる口輪筋などの口周りの筋肉や、頬の筋肉、舌の筋力を自然と鍛えることになります。
リラックスの口ができない!
しかし「リラックスの口」を実行してもらうと「舌先がすぐにスポットから離れて、上の歯の裏にくっついてしまう」「下の歯の裏にいってしまう」あるいは「口がポカンと開いてしまっている」と訴える生徒さんもいらっしゃいます。
スポットに舌先を置いておけないのは舌の筋力低下、そして口が開いてしまうのは口周りの筋力が低下していることが原因の1つとして考えられます。
つまり、舌や口周りの筋力が低下しているから口呼吸になっているという考え方もできるので、私のボイトレ教室では、舌や口周りの筋力アップトレーニングをお教えしています。
普段からの心掛けと地道な努力さえあれば、ほとんどの方が口呼吸から鼻呼吸へシフトすることは可能です。
なぜ鼻呼吸をおすすめするのか
以前のコラムにも書きましたが、口には空気中のウイルスやバイ菌を吸着し、外から取り込んだ空気に適度な加温と加湿をする機能が備わっていません。
口から息を吸えば、口の中にある扁桃腺や咽頭や喉頭の粘膜が腫れるリスクも高くなります。
実際、口呼吸をされている生徒さんは「風邪を引きやすい」という方が多いです。
また、鼻呼吸は腹式呼吸には欠かせない横隔膜筋の動きを誘発するとも言われています。
私も、鼻から息を吸い込むと容易に横隔膜筋をやわらかく動かす(下に落とす)ことができますが、口から息を吸い込むと横隔膜筋をうまく動かすことは難しくなりますし、同時に首の筋肉が堅くなってしまいます。
最後に
いかがでしたか?
私の経験や、ボイトレ教室の生徒さんの変化などから、のどが弱いという方には鼻呼吸をメインの呼吸法に切り替えることをおすすめします。
次回のコラムからは、鼻呼吸とも関連すると考えられる腹式呼吸のお話をしていきたいと思います。
ライタープロフィール
ボイストレーナー
相馬りえ
シンガーソングライター/ボイストレーナー。
ドラマーの娘と夫の3人で結成した家族バンド「かねあいよよか」でギターボーカルを担当。
メンバー全員が作詞作曲、ボーカルを務める。
自宅1階には、レコーディングやバンドリハーサルに対応した15畳のプライベートスタジオを構える。
職業はボイストレーナー他に、新聞や広報紙などの取材記者と、観光情報Webサイトのライター。
食生活アドバイザーの資格を有する、7歳の娘と4歳の息子の母。
■体が目覚めるボイストレーニング Webサイト
■かねあいよよか Webサイト
ウェブサイト:http://kaneai.jimdo.com